日めくりZガンダム 1

1日「カミーユが男の名前でなんで悪いんだ!?俺は男だよ!」

 こんにちは。「日めくりカレンダーで振り返るZガンダム*1」1日目は、カミーユガンダムに乗るきっかけとなったあの事件に関するセリフです。それでは、カミーユの行動に焦点を当てながら第1話「黒いガンダム」を振り返っていきましょう。

赤いスーツのパイロットと、赤いモビルスーツ

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赤いスーツのクワトロ大尉と赤いモビルスーツ(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ

 第1話「黒いガンダム」は宇宙空間からスタートします。まず初めに登場するのは、赤いノーマルスーツを来た男性パイロットです。赤い男は赤いモビルスーツを操縦しており、なんとなく既視感を感じさせますね。赤いモビルスーツに同行するのは、同型で黒色の地味なモビルスーツ2機です。赤い機体に乗っているのが上官、黒の機体はその部下でしょう。上官が2人の部下に話しかけますが、その声は1stに登場した赤い彗星シャア・アズナブルそのままです。2人の部下が「搭乗して日は浅いが操縦にはもう問題がない」「自分らはそうやって一年戦争を切り抜けてきた」と言うと、シャア声の上官は「過信は自分の足をすくうぞ」と釘を刺しました。会話からは、部下の階級と名前がアポリー中尉とロベルト中尉、上官の階級と名前はクワトロ大尉だとわかります。何やら作戦行動中のようですが、特に詳細は語られず、コロニー内のシーンに切り替わります。

主人公 カミーユ・ビダンの登場

 ハイスクールの空手部の活動風景から始まります。副主将が見事な技を披露して得意気になっていると、緑髪の青年がやけに元気な声で「病欠します!」と宣言して逃げるように道場から立ち去りました。青年は校舎の入り口にいたキャプテンに捕まりビンタを食らったものの、上手に受け身をとって再び走り去って行ってしまいました。

 青年が学園内を走っていると、女子学生が追いかけてきます。女子学生は青年を「カミーユ」と名前で呼びますが、彼は「言うなよ、カミーユってのが俺だって、誰にだって分かってしまうだろ」と言っています。カミーユはどうやら自分の名前を気に入っていないようです。

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自分の名前を気に入っていないカミーユ・ビダン(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ

 カミーユはパーキングから車を出しました。*2先ほどの女子学生も助手席に飛び乗ってきますが、カミーユがそれを嫌がる様子はありません。二人はそこそこに親しい仲なのでしょう。1stではアムロの幼馴染としてフラウ・ボゥが登場していたことが思い出されます。カミーユの向かう先はどうやら港のようですが、女子学生はクラブをサボって何度も港へ行くことを「いけないわよ」と注意しています。

 「女子学生」と何度も書くのは煩わしいので、彼女がファ・ユイリィという名前であることをここで明かしておきます。

  カミーユとファの二人は公共交通機関らしきリニアカーに乗り換えて港に向かいます。カミーユは一刻も早く港に着きたいようで、発車までのカウントダウンを省略させるなどせっかちな一面を見せたほか、爪を噛む癖をファに注意されたり、リニアカーから降りた無重力帯でワタワタする様子を今度は機械音声に注意されたりなど、子供っぽいところもあるように感じられます。

 リニアカーがコロニー外壁を移動するところで、これからの展開を予想させる意味深なシーンが入ります。カミーユは初めのうち宇宙の眺めを楽しんでいましたが、シュンシュンシュンシュン…というSEが流れて急にハッとした表情になります。カミーユが目線を移した先には宇宙空間を移動する3つの光が見えました。これは先ほどの3機のモビルスーツです。クワトロ大尉のコックピットにもシュンシュンシュンシュン…というSEが流れ、大尉は「この感触…アムロ・レイララァ・スンか…?」と呟きました。1stガンダムでも見られた、ニュータイプ同士が感応し合うあの現象ですね。カミーユニュータイプであることを示す描写はこの後もチラホラ出てきます。

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クワトロ隊を感知するカミーユ(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ

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ニュータイプの気配を感じ取るクワトロ大尉(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ

1stとのつながり

 カミーユがクラブをサボって港に来た理由は次のシーンで明らかになります。カミーユは、地球からの輸送船テンプテーションを見に空港まで来たのです。テンプテーションのキャプテンは一年戦争でおなじみのブライトさん。前作の登場人物の名前が出るのはこれが初めてです。(2020.02.03訂正:先ほどのシーンでクワトロ大尉が「アムロ・レイ」「ララァ・スン」の名前を出していました。)カミーユとファの会話では説明なしに名前が登場しており、ブライトさんが一年戦争における貢献者として有名になったのだろうと想像できます。

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ブライトさんの登場(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ

 「講演会でサインをもらったことがある」などのセリフからは、カミーユがブライトさんに憧れている様子がわかります。ここで、カミーユとファとの間で意見が分かれたのは、「ブライトがニュータイプか否か」です。1stガンダムで描写されているように、ブライトさんはアムロのようなニュータイプではありません。ブライトさんが講演なんてするのであれば、自分が関わったニュータイプアムロ・レイとオールドタイプたる自分を比較して語る場面もあったのではないかと私は思うのですが、講演を聞いたカミーユはブライトさんがニュータイプだと考えています。カミーユは、ブライトさんがニュータイプだと考える根拠を「ホワイトベースの艦長をしていた」こととしています。

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ブライトさんがニュータイプか否かで意見を違える2人(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ

 ここで私が思い出したのはF91における「ニュータイプモビルスーツスペシャリスト」というとらえ方です。F91逆シャア(U.C.0093)から30年後の物語であり、ニュータイプという概念は「昔のもの」として語られています。「思念を感じとることができる」「直感に優れている」など、ニュータイプのもつ様々な側面が削ぎ落とされて伝わった背景には時間の流れというものもあるでしょう。しかし、そもそもニュータイプが活躍していた当時から、一般の人々のニュータイプに対する認識はその程度のものだったのではないかと私は考えています。一般人がニュータイプを「戦争で活躍できる才能」程度にしか捉えていないのであればホワイトベースのクルー全員をニュータイプと考えるのも無理はありません。後々の話数では、連邦がニュータイプに対して警戒心をもっていたという描写も登場します。ブライトさんも、公的な場でニュータイプについて詳しく話すことを制限されていたのかもしれません。*3

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風化してしまったニュータイプの概念(F91) (C)創通・サンライズ

雉も鳴かずば…

 カミーユは到着ロビー(壁に「WELCOME GREAN---」の文字)に向かいました。どうしてもブライトさんに会いたいようで、ファの制止も耳に入っていません。ロビーには黒い制服の一団がおり、カミーユはそれを見て「ティターンズか」と忌々しそうに呟きます。ティターンズは地球連邦内の組織の名称ですが、カミーユティターンズを好ましく思っていないようです。金髪の隊員が「ティターンズらしくなってよく来てくれた」と、別の隊員を歓迎しています。この金髪の隊員がファの「カミーユ!」という声を聞き、ロビーの入り口に視線を移したところでカミーユ本人を目撃しました。この時、金髪の隊員は「カミーユ?女の名前なのに。なんだ男か」と、後々のティターンズ崩壊を招く原因となった歴史的失言をしてしまいます。このセリフは深く長いエコーがかけられ、サイケな背景とともにカミーユの心に侵食していく様子が描写されます。

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ティターンズ隊員の失言と、カミーユの心情描写(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ

 険しい表情でツカツカと歩み寄るカミーユ。それに気づくも金髪の隊員は「カクリコン中尉の知り合いか?」と暢気な勘違いをしています。そして問題のシーン。カミーユは「ナメるな!」と叫び、金髪の隊員に強烈なパンチを食らわせました。ここで登場するのが、日めくりカレンダーの記念すべき1日目のセリフ「カミーユが男の名前でなんで悪いんだ!俺は男だよ!」です。

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本日の名言(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ

 カミーユが自分の名前を好ましく思っていない様子は冒頭の学園のシーンで描写されていましたが、その原因は「カミーユ」という名前の女っぽさにあったようです。カミーユはアルファベット表記でKamilleです。画像検索をするとお花が出てきました。これはカモミール(Chamomile)というお花で、Kamilleはそのオランダ語名です。和名のカミツレはここからきているらしいです。

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カモミール(「ぱくたそ」フリー素材) (C)エリー

 「カミーユ」とカタカナ表記で調べると「Camille」というフランス語圏の人名についてのWikipedia記事がヒットし、その中では大天使カマエルに由来すると説明されています。別にお花のカミツレが由来ではなさそうですね。消すのももったいないので文字サイズだけ小さくして残しておきます。

 日めくりカレンダーにあるカミーユの人物紹介には「名前のことを中傷したティターンズの士官を殴りつけMPに逮捕される(ちょっとだけ改変)」とありますが、「中傷」というのはカミーユ視点でのとらえ方だと私は思います。次のシーンで描写されているように、殴られた直後の金髪の隊員は殴られた理由を分かっていません。あえて分からないフリをして、相手のコンプレックスをさらに刺激するというタチの悪い企みをしていた可能性もありますが、そこまで悪賢い人間ではなかったと思います。「なんだ男か」発言は金髪の隊員にとって単なる独り言だったのでしょう。Zガンダムという物語の歯車を大きく進ませた要因の一つが、女好きのお調子者の独り言だったというのはなんとも皮肉なもんです。

 さて、本編に戻りましょう。当然ながらティターンズ隊員に手を出したカミーユは取り押さえられてしまいます。カミーユが「言っていいことと悪いことがある!」と言うと、殴られた金髪の隊員は「何を言ったんだ、俺が」と尋ねました。この時点で、金髪の隊員は自分の言動のどこに殴られる理由があったか分かっていないはずです。カミーユが「男に向かって『なんだ』はないだろ」というと、金髪の隊員はようやく殴られた原因を理解し、「なら男らしく扱ってやるよ!」とカミーユの額をつま先で蹴り上げました。人のコンプレックスに付け込んだひどいやり口ですね。

 この金髪の隊員はカミーユとの因縁が深く、この先の話でも登場するのですが、私の記憶の限りでは、こいつがカミーユより優位に立てたのはこれが最後だったと思います。*4

黒いガンダム

 カレンダーノルマを回収したところで場面は再び宇宙です。赤いスーツのクワトロ大尉がコロニーへの侵入を試みます。大尉はコロニーを見て「ジオンの寄せ集めで作ったコロニーとは言うが、ティターンズの秘密基地という話だ」と言いました。先ほどのシーンで到着ロビーにティターンズがいたのは、何か秘密裏に作戦が進行しているのかもしれません。

 (2020.02.03追記:以下の文章では2019.12.1の投稿時点で勘違いしていた部分に訂正が入れてあります。2日目の記事で解説していますが、この時クワトロ大尉が侵入したのは、カミーユのいたコロニー(グリーン・ノア1)ではなく、グリーン・ノア2という軍事コロニーでした。第1話でも、この2つのコロニーが別物であることは画面から読み取れるのですが、テロップやナレーションによる説明がなかったため私は見逃してしまいました。左側の画像がグリーン・ノア1、右側の画像がグリーン・ノア2(グリプス)です。)

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グリーン・ノア1(左)とグリーン・ノア2(右)(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

  一年戦争から7年が経ち、平和なコロニーではセキュリティもゆるゆるです。監視員の一人はクワトロ大尉の侵入した23番ゲートのエアロック解除に気付きますが、もう一人は「コロニー公社の若造が研修中だとさ」と軽く流します。監視カメラはないのかよ…。それに続いて「グリーン・ノア2でか?」「グリプスって呼べよ。大佐に怒られるぞ」「ふん、気取っちゃってさ」というやりとりがあります。どうやらコロニーにはグリーン・ノア2/グリプスという2つの呼び名があることと、「大佐」という人物にはコロニーの呼び名を変更するだけの権力があり、皆から畏れられているということがわかります*5。クワトロ大尉の言っていた「ティターンズの秘密基地」にも真実味が出てきました。

 クワトロ大尉が居住ブロック内部に侵入して偵察を始めると、モビルスーツとドックを発見しました。もうティターンズの基地で間違いなさそうです。霧が深くなり視界が悪くなると、クワトロ大尉は「潮時か」と、コロニーからの脱出にかかります。1stでは、ザクに乗ったジーンが「シャア少佐だって、若くして戦果をあげたんだ!」と思わず攻撃をかけてしまい、そこからアムロガンダムパイロットとしての活躍が始まったことを考えると、ジーンとは対照的に潔い行動です。

 居住ブロックの出口に向かうクワトロ大尉でしたが、大尉は飛行中の機体と危うく接触します。怪しい侵入者を見つけたモビルスーツは、早速大尉を追いかけてきました。クワトロ大尉に接近するモビルスーツはなんとガンダムです。これが今作におけるガンダムの初登場となります。1stと違うのはなんといってもその色です。第1話のサブタイトル「黒いガンダム」はこのガンダムからとられたものでした。左肩には「01」とマークされています。

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黒いガンダムとすれ違うクワトロ大尉(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ

 黒ガンダムはクワトロ大尉を狙って発砲しますがモビルスーツが人間を狙撃できるはずもありません。結局、ガンダムはクワトロ大尉にうまいことまかれてしまいました。大尉は先ほどの侵入口から逆に戻って自分の機体に戻ろうとします。コロニー職員が必死に捕まえようとしましたが、全く相手にはなりません。このザマを見てクワトロ大尉は「こんなものか…」「まだまだ組織は出来上がっていないということか」とコメントしました。大尉の機体が発射する際、スラスターの噴射で吹き飛ばされるコロニー職員の姿がなんとも哀れです。

 次に、クワトロ大尉の部下、アポリー中尉とロベルト中尉がコロニー外からのグリーン・ノア1の外から偵察を行っている場面に切り替わります。アポリー中尉がコロニーのガラス部分からカメラで中を覗き込むと、先ほどの黒いガンダムが写りました。コロニー内グリーン・ノア2のクワトロ大尉と、コロニー外グリーン・ノア1のアポリー中尉の両方がガンダムの証拠を捉えたことになります。この黒いガンダムは「NEWガンダム」(νガンダム逆シャア)、「Mk-II」と呼ばれ、本コロニーでの開発が噂されていたようです。アポリー中尉は、ロベルト中尉にクワトロ大尉と接触するように言いました。クワトロ大尉が、コロニーグリーン・ノア2内でモビルスーツおよびドックを見つけたところで偵察を終了したことと合わせて考えると、今回出動した3人の目的はガンダムだったと考えられます。

カミーユの脱走

 再び場面はコロニー内、カミーユの取り調べシーンです。当然、おでこを蹴られておしまいというわけにはいきません。取り調べをしているのはMP(憲兵)ですが、先ほどカミーユを取り押さえたMPよりもいい服を着ているように見えます。MPの中にもティターンズとそれ以外がいたりするのでしょうか。MPはカミーユに、ものすごい剣幕で「エゥーゴを知らないだと!」と詰問します。また何か新しい名詞が出てきましたね。

 カミーユが一向に答えないため、MPは何かのファイルを見ています。カミーユの情報が書いてあるようですが、こんなものが準備されているとは恐ろしいですね。ファイルにはカミーユのこれまでの表彰歴があり、ホモアビス大会優勝、ジュニアモビルスーツ大会優勝などの輝かしい成績を残していたことが明らかになります。柔道だけじゃなかったんですね。カミーユという女っぽい名前に相当なコンプレックスを持っていたらしいことがここまで描写されており、これらの趣味もその反動ではないかと思います。MPは「既に実戦で使えるほどの成績がある」と評しますが、カミーユは手錠で拘束された両手と、肩をこわばらせ、険しい表情を崩しません。何か軍隊嫌いのようなものが感じられます。

 とりあえずカミーユを褒めてみる作戦に見切りをつけたのか、ここでMPは先ほどの話題に戻ります。MPは「エゥーゴの分子でない者がなんで、なんでティターンズに喧嘩を吹っ掛けるんだ!」と怒声を上げ、机をバンと叩いてカミーユに問い詰めます。「エゥーゴ」というのは何らかの運動団体で、ティターンズと対立しているようです。さらにMPはエゥーゴの悪口を続けます。「エゥーゴというのが宇宙に住む人間たちの独立自治権を求める運動だというが、そりゃ嘘っぱちなんだ」「ジオンの真似をして地球に住む人々を非難しているだけのくだらない連中」などと酷い言いようです。エゥーゴは、1stにおけるジオン軍のような、スペースノイドスペースコロニー側の勢力に属しているみたいです。1stでは、ジオン軍は主人公アムロの所属する連邦軍と敵対する存在であり、作中の細かい機微を色々無視した翔べ!ガンダム的世界観でいえば悪役にあたる存在でした。しかし、本作Zガンダムでは、主人公のカミーユを殴るわ蹴るわ怒鳴るわと、ティターンズの方がいかにも悪役っぽく見えます。

 いくら怒鳴ってもカミーユの供述を得られないため、MPは「いつまでも強情を張っているがいい!」と吐き捨てるように言って取り調べ室を出ていきます。カミーユはようやく緊張から解放されて脱力し、顔を下に向けました。その時、カミーユは何もないはずの取り調べ室の床面から、夜の星空のように宇宙空間が見えていることに気づきます。「気のせいだ…疲れているんだ…」とカミーユは自分に言い聞かせますが、床面に見える宇宙空間は消えません。

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床面から宇宙空間を見てしまうカミーユ(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ

 カミーユが呆然としていると、スーツ姿の男性が取調室に入ってきて、カミーユに釈放を告げました。先ほどのMPも一緒です。スーツの男は「カミーユ君、スポーツマンはもっとハキハキしなくちゃな」など、MPとはうってかわって紳士的な言葉遣いをしています。スーツの男は「君が身分不詳のスペースノイドなら4,5日は彼にかわいがられるところだ」と続けます。このセリフから、カミーユは地球出身、いわゆるアースノイドであるか、またはある一定の身分をもった人物であることがわかります。後者の「身分」というのはカミーユの母親が関係しており、軍に拘束されたカミーユを「お迎えにきた」と言えば釈放してもらえるくらいには、カミーユ母はお偉いさんのようです。手錠を解かれたカミーユはやっと言葉を発しますが、そのことをMPにからかわれ、MP相手に再び暴力沙汰を起こしてしまいます。どうでもいいですがこのMPはマトッシュという名前のようです。せっかく釈放だったのに再び取り押さえられるカミーユ。もう今度は助かる見込みがなさそうです。

 するとその時、取調室がガタガタと揺れ始め、テーブルとスーツの男が倒れてしまいます。次の瞬間、天井が粉々に崩れ、破片がカミーユ達の上に落ちてきました。倒れたカミーユが視界を取り戻したとき、穴の開いた天井から、先ほどクワトロ大尉と接触した黒いガンダムの頭部が見えました。今度の機体は「03」とマークされています*6。しかし、マトッシュに4,5日かわいがられるかどうかの瀬戸際のカミーユにとってはガンダムなどどうでもいいことです。破片を払いのけてカミーユは取調室から逃げ出しました。当然カミーユを取り押さえていたMPが追いかけますが、基地の中は負傷した連邦軍の兵士でいっぱいで満足に追いかけられず、あっさりと逃げられてしまいました。

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取調室のある建物に落ちてきた黒いガンダム(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ

 右往左往する兵士たちの声を拾ってみると「こっちにも救護班をよこせ!」「Mk-IIが落ちたんだとさ!」「3号機か2号機かわかってんのか!?」などのセリフが飛び交っています。ガンダムはクワトロと接触した01、墜落した03、そして2号機の3つが存在しているようです。

 ロビー内でカミーユは迎えにきた母親と出くわします。カミーユ母は軍服を着ていないので、先ほどのスーツの男はカミーユ母の同僚(部下?)ではないかと私は思いました。2回も暴力沙汰を起こしてしまったカミーユは、母親を一瞥してそのまま逃走を続けます。

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カミーユ母。軍服を来ていない(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ

カミーユの逃亡

 混乱に乗じて玄関口までたどり着いたカミーユですが、1つのシーンで立て続けに情報が開示されます。2つのポイントに注意して振り返ってみましょう。

 基地に背を向けて走り去るカミーユの背後で、玄関口前に一台のバギーが止まりました。

  • 1つ目のポイントは兵士の「ジェリド中尉だとよ。無茶のしすぎだよ!」というセリフです。ガンダムの墜落事故を起こしたのはジェリド中尉という人物だとわかります。
  • 2つ目のポイントは、兵士がバギーから降りた後のことです。カミーユは「車に背を向けた状態で」バギーが運転可能なことに気づきました(このシーンではなぜかギアが光って見えています)*7。シャアとカミーユが感応した時のシュンシュンシュンシュン…というSEも流れています。カミーユが回れ右してバギーに乗り込み逃げようとすると、そのすぐ横をブライトさんの乗ったバギーが通過していきました。カミーユは一度ブライトさんと同じ方向へ車を発進させた後、方向転換して基地から離れていきます。

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第六感を駆使して盗みをはたらくカミーユ(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ

 私は、第1話の時点でカミーユにはガンダムに乗る意思などサラサラなかったと読み取りました。その理由が、続く2つのシーンです。検問所突破シーンの直前、バギーで逃げるカミーユの背後にガンダムが写り、カミーユは振り返って基地から(ガンダムから)遠ざかっていることを確認しています。検問所突破後には、カミーユが本部ビル裏側に回り込み、ガンダムを遠巻きに見ているシーンが入るのですが、カミーユは「俺が逃げ切れるまで、そこに座っていてくれよ」と発言します。これは事故現場に人が集まっているどさくさで逃げてしまおうという意思の現れでしょう。*8

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カミーユガンダムに乗るつもりがなかった?(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ

 カミーユは、コロニーの壁にかかった橋を渡る寸前で車から飛び降り、道路わきの草地に飛び込みました。直前には何かに気づいてハッとする思わせぶりなシーンが挿入されているのですが、これは「車だと足がつく」とかなんか考えていたのでしょうか?気になるところです。

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この瞬間カミーユは何を考えている?(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ

 車を乗り捨てたカミーユは「こんなことしちゃって、俺、どうするんだ…?」と呟きます。「こんなこと」がどんなことだったのか今一度振り返ってみましょう。

  1. ブライトキャプテンに会いに空港へ行く
  2. 金髪のティターンズ隊員の独り言に腹を立て、思わず殴りかかる
  3. 拘束され、取り調べを受けるが、ママがお迎えに来てくれたことで釈放される
  4. あともうちょいで釈放、というところでマトッシュの挑発に乗ってしまい再び暴力沙汰を起こす
  5. ガンダム墜落事故のどさくさに紛れて取調室を脱走
  6. 乗り捨てられたバギーを第六感で察知し、盗難して乗車
  7. 検問所を突破
  8. バギーを乗り捨てて、道路わきの草地へ逃げ込む

ざっとこのような感じです。まあ捕まったら最後、お家へ帰るのは数年ほどかかりそうですね。「こんなことしちゃって、俺、どうするんだ…?」という心境は皆さんけっこう経験があるかと思いますが、どうもカミーユはやり過ぎてしまう傾向があるのかもしれません。第1話におけるカミーユの登場シーンはここまで、カミーユが俗にいう「詰み」の状態になったところで終了となります。

続編第1話における「ガンダム

 墜落したガンダムパイロット、ジェリド中尉ですが、ガンダムを背後に逃走するカミーユのシーンと、検問所突破のシーンの間に挿入された事故現場のカットから正体が明らかになります。墜落したガンダムは、ビルにもたれかかるような、なんとも情けない姿勢をとっています。コックピットが開くと、登場したのは「なんだ男か」発言のあの金髪隊員です。こいつがジェリド中尉だったのです。こんな鼻持ちならん奴がガンダムを操縦し、あまつさえ墜落させたというのは、初見の視聴者に大きなショックを与えたことでしょう。ここまで(そして第1話終了まで)、ガンダムの活躍シーンはゼロです。コックピットを出て周りの状況を確認したジェリド中尉は「こりゃあ、始末書じゃあ済まんかな…」とつぶやきました。顔にはひきつった笑いを浮かべており、苦し紛れの冗談を言ったかのようにも見えます。*9ここでシーンはカミーユの検問所突破に切り替わります。

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ガンダムを墜落させたのは「なんだ男か」発言のあの隊員(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ

戦艦アーガマの登場

 さて、カミーユが詰んでしまったところで場面は宇宙に切り替わります。アポリー中尉はクワトロ大尉と接触し、隕石の陰で何やら会話をしていたようです。おそらくNEWガンダム発見についてのことでしょう。報告を受けたクワトロ大尉は「アーガマに動いてもらうか」と提案し、アポリー中尉はそれに同意して信号弾を発射しました。信号弾をキャッチしたのは白い戦艦で、これがクワトロ大尉のいう「アーガマ」のようです。戦艦アーガマはビーム砲を発射し、ビームがコロニー外壁に着弾したところでエンディングとなります。発射と着弾の間にはクワトロ大尉が「ほう…」と唸るカットが挿入されており、「(そう来るか…)」という言外の雰囲気を感じます。クワトロ大尉は、アーガマを指揮する人物の手の内をあまり知らないということなのでしょうか?

 ここまでが機動戦士Zガンダム第1話「黒いガンダム」の本編となります。

クワトロ大尉の正体

 エンディングはファ・ユイリィがハロと一緒に走っている映像です。クレジットを見ると、一番上に「シャア・アズナブル 池田秀一」と書かれています。シャア声のクワトロ大尉の正体はシャア・アズナブルで間違いないようですね。とりあえずこのブログではクワトロ大尉表記で通していこうと思います。

第1話「黒いガンダム」感想

 感想文を書くつもりが下手な解説文(推敲なしver.で11000字弱)を書いてしまったので、Zガンダムの2回目視聴の感想をここでまとめておきます。
 まずはじめに驚いたのは、カミーユが第1話ではガンダムに乗っていなかったということです。まっさらな心構えで第1話を見ると、カミーユガンダムに乗るつもりがないように読み取れたので、ここからどのようにカミーユガンダムに乗るのか楽しみに見ていこうと思います。
 ジェリドのガンダム墜落は、記憶よりも基地の被害が大きかったのにビビりました。こんなことしてタダじゃすまない、という点では所詮軍人に喧嘩を売っただけのカミーユの比ではないと思うのですが、コイツには大したお咎めがなかったように記憶しているので、どうしてジェリドが相応の罰を受けなかったかにも注目したいですね。

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記憶よりも被害の大きかった連邦軍基地(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ

 また、第1話は戦艦アーガマがコロニーにビーム砲を発射するシーンで終わりましたが、クワトロたちが何を目論んで行動しているのかはわかりません。そこは次回で明らかになるでしょう。
 2周目では一時停止と巻き戻しを駆使し、メモを取りながら視聴した結果、1周目には気づかなかった多くの点で新たな発見がありました。この調子で2話以降も見ていくのが楽しみです。拙い文章だと思いますが、できる限り推敲して、なんとか読める水準にしていくつもりです。どうぞよろしくお願いいたします。

公式サイト掲載のあらすじ

シャア・アズナブルの乗るモビルスーツ(以下MS)リック・ディアスは、サイド7のコロニー、グリーン・ノア2に向かっている。彼はクワトロ・バジーナ大尉と名を変え、反連邦政府組織エゥーゴに参加していた。

地球連邦軍を私物化し、グリーン・ノア2(別名グリプス)を軍事基地化するティターンズの偵察を試みたのである。コロニーに接近するリック・ディアスの中で、シャアはそこに新たなニュータイプの存在を感じていた。

同じ頃、グリーン・ノア1に住むカミーユ・ビダンは、ティターンズジェリド・メサ中尉に、コンプレックスを持つ名前から性別を間違えられたことに激し、彼を殴る。そのことでティターンズに逮捕されたカミーユはMPに尋問を受けるが、コロニー内でテストが行われていたMSガンダムMk-Ⅱの墜落事故に乗じて脱走した。

一方、ティターンズが開発していたガンダムMk-Ⅱの存在を知ったシャアは、母艦のアーガマに連絡を取り、機体の奪取を決意する。アーガマの砲撃によってグリーン・ノア1への侵入口を開き、ガンダムMk-Ⅱ奪取作戦が始まろうとしていた。

ストーリー | 機動戦士Ζガンダム

 公式サイトのあらすじには本編中に登場しなかった名詞(リック・ディアスなど)が登場し、話をわかりやすく要約してくれているので、本編を見た後に読むと内容が整理できてよいと思います。公式サイトにはキャラクターの紹介もあるのですが、重大なネタバレが含まれているのでこちらは閲覧をお勧めしません。

第2話予告

カミーユ・ビダンは黒いガンダムに乗った

それがグリーン・オアシスからの別れの歌だ

それを追う、もう一機のガンダムMk-II

ガンダム同士の戦う異常な光景は新しい時代の幕開けか

次回 機動戦士Zガンダム 「旅立ち」

君は刻(とき)の涙を見る

※本編のセリフ、キャプチャ画像及び次回予告のナレーションはバンダイチャンネルで配信されている「機動戦士Zガンダム」を出典としています。

www.b-ch.com

 
 
 

*1:記事タイトルでは「日めくりZガンダム」と表記

*2:イカーなら結構な金持ちですよね。駐車場というよりもスタンドのように見えますし、カーシェアのようなシステムでしょうか?

*3:1stにおける「ニュータイプ部隊」という言葉は劇場版で初めて登場するみたいですね

https://www.b-ch.com/search/subtitle/?search_txt=%E3%83%8B%E3%83%A5%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%83%97%E9%83%A8%E9%9A%8A

*4:バウンド・ドックに乗った時はちょっと調子にのってましたっけ?

*5:このコロニーの名称については色々とややこしい設定があるので2日目の記事で紹介しようと思います

*6:私はてっきり、クワトロ大尉にまかれたガンダムがバランスを崩して落ちてきたのだと思っていたのですが、機体番号をチェックするとクワトロと接触したガンダム(01)と墜落したガンダム(03)は別物です。連邦のパイロットよ…

*7:友人にも「なぜカードキーではなくギアが光ったのか」と聞いてみましたが理由に思い当たる人はいませんでした。ある友人は「バギーがすぐ発進できることを示しているのでは?」と言っており、これにはなるほどと思ったのですが、実際にはカミーユがバギーに乗ってからエンジンをかけるまで数秒を要しているためどうも違いそうです。今のところ私は「わかりやすく光らせられる部分がギアしかなかった」という身も蓋もない推測をしています。ペーパードライバー的にはこう考えるのが限界です

*8:検問所突破シーンに登場する黒いガンダムは「02」とマークされています

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ガンダムMk-II 2号機(Zガンダム第1話) (C)創通・サンライズ

*9:私はこれを書きながら、1st第1話におけるジーンの「へっ、怯えてやがるぜ、このモビルスーツ」発言をなんとなく思い出しました